ネット小説のご紹介:『人狼の転生、魔王の副官』

2019年2月11日

ある程度見に来てくださっている方がいるようなので(大変うれしいことです)、ひとつひとつ、私の好きなものを書いていくことにしました。

今日ご紹介するのは、ネット小説 『人狼の転生、魔王の副官』 です。 俗に「なろう」といわれるサイト、「小説家になろう」に連載されている作品のひとつです。

私は昔からインターネット小説などを読むのが好きでした。 とはいえ、読んでいるのはもっぱら、「なろう」ばかりで、おそらく、古参の方とは比べるべくもありません。しかし、それなりにたくさんのネット小説を読んでいると思います(ためしに『小説家になろう』の累計ランキングを今見てみたところ、だいたい3割~4割くらいのタイトルを既読でした)。

私の好みを書いておくと、 私が好きなネット小説のジャンルはもっぱら(いわゆる)ファンタジー小説で、リアルが舞台の小説はそれほど読みません。

『人狼の転生』の状況

この作品はもともとインターネット小説でしたが、途中で書籍化されていて、本になったものをamazonや書店などで購入できます。そちらでは校正や加筆が行われており、作品のクオリティはより高いものになっています。しかし、校正加筆される前のバージョンはほぼすべて無料でインターネット上で見ることができます。

『人狼の転生』のあらすじ

人狼の魔術師に転生した主人公ヴァイトは、魔王軍第三師団の副師団長。辺境の交易都市を占領し、支配と防衛を任されている。
元人間で今は魔物の彼には、人間の気持ちも魔物の気持ちもよくわかる。おかげで周囲からは知勇兼備の名将だと思われているが、実際は苦労の連続だ。
やたらと暴力に訴えがちな魔物たちを従え、すぐに文句を言う人間たちも何とかして、彼は今日も魔王軍の中堅幹部として頑張る。

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『人狼の転生』の主人公は、ヴァイトという名前の人狼です。あらすじに書いてある通りなのですが、その人狼の主人公が、人間と人間ではない種族とのあいだを駆けずり回って、色々なトラブルを解決したり、未然に防いだりするお話です。

「なろう」小説をあまり読まれていない人はわかりづらいと思うのですが、「転生」はこの場合、「現代日本で死亡したあとに第二の生を異世界で受ける(記憶は保持している)」ということを意味します。

ストーリーは主人公ヴァイトが、「リューンハイトという交易都市を無血で攻略しようとする」というところから始まります。

『人狼の転生』の魅力:多様な価値観

『人狼の転生』はファンタジー作品なので、人間ではない種族が多く出てきます。人間ではないから、体つきが違っていたり、食べるものが違うだけでなく、価値観が違います。また、人間同士の間でも、住んでいる地域や生きてきた流儀によって、価値観は大きく隔たっています。

この作品は、 そうした「異なる価値観」を描き出すのがとても上手いです。主人公ヴァイトはもともと現代日本の人間なので、私たちと似た価値観を基本的には持っているわけですが、ヴァイト=私たちにとっての「異なる」価値観が、どういった土壌から出てくるのか、また、その価値観に基づくとどういった結論になるのか、をとても自然に記述しています。

『人狼の転生』の魅力:決断のリアリティ

それに加えて、私が評価するポイントは、「リアリティ」と「読みやすさ」です。

ファンタジー小説なのに「リアリティ」というのも変だと思われるかもしれませんが、ファンタジーだって現実味がないわけではありません。世界観にも人物にも「リアルさ」は語れます。どんな小説の登場人物だって悩んだり恋愛をしたりするように、ファンタジーの登場人物だって愛し、苦悩し、叫び、裏切ります。

『人狼の転生』はどこか、不思議な無常観とでもいうべきものがいつも物語の裏に隠れているような、そんな物語です。それは作者の無常観なのか、それとも主人公ヴァイトの無常観なのかわかりませんけれど、作中で描かれる人物は、みなどこか「現実」を見据えて決断し、行動する人物たちとして描かれます。だからこそ魅力的で、そしてときに死を選ぶ。自分の死をどこかで受け入れながらも、守りたいものを守ろうとあがく。そういった場面が、物語の各所で垣間見えます。

悲痛だから、登場人物が苦難を避けられないから、自由ではないからリアルだと言っているわけでもありません。そうではなくて、登場人物の決断がどこか、死の可能性に裏打ちされた場所で行われていること、自分自身を賭しての決断であることが、「リアリティ」の意味です。この決断の在り方は、私たちの日常からするとかけ離れていますが、しかし、人権もなく、明日も知らぬ民が暮らすファンタジー世界の空気を存分に伝えてくれるものです。

『人狼の転生』の魅力:読みやすさ

冒頭で述べたように、私はそれなりの数のネット小説を読んでいますが、『人狼の転生』の読みやすさは特筆に値するものです。

物語のうちに、主人公の不自然な思考の流れというのがほとんどありません。にもかかわらず、物語のなかで起きることを見事に事前情報としてあらかじめ描き出してくれており、読者は驚くことこそあれど、「なぜこんなことになっているのか」と理解に苦しむことはほぼないかと思います。

情報の出し方や、物語の転がし方がかなり上手い作品だと思います。世界観も非常に練られており――もちろん希代の設定オタクたるトールキン(『指輪物語』の作者で、設定練りすぎて新しい言語作った人)ほどではないと思いますが――、読み進めるごとに、ああそういう設定なのかと楽しんで読むことができます。

おすすめ度

私と好みが被る人であれば、かなり楽しんで読めると思います。気が向いたら、ぜひご一読ください。

細かくは書きませんが、ヴァイトも魅力的なキャラクターです。とくに、すさまじく仕事ができそうなキャラクターなので、ああこういう風に気を使うのかと立ち振る舞い方に勉強になることもちらほらありました(コミュ障)。もっともっと語りたいいいポイントはあるのですが、今回はこんなところで。